おんぱく写真部レポート
【 1】大橋兄弟の漁見学と、獲れた川蟹でスペシャル会席:開催レポート
「漁師になって70年。そやけど、まんだ勉強中ですわ。長良川大学に、こうして毎日通っとる(笑)」
大橋亮一さん(78歳、写真左)、大橋修さん(76歳、写真右)は、祖父の代から3代続く川漁師だ。小学5年生から船に乗っている。
いまや、長良川の下流一帯で川漁師をしているのは8人のみ。中でも専業漁師は大橋さん兄弟だけとなった。
河口堰や、環境の変化で、魚が激減した。
漁に欠かせない、木の船を作る職人もいなくなった。
兄の亮一さんは、息子さんを一度も漁場に連れてきたことはない。
「いっぺんでも息子に漁をさせたら、楽しくなって、
きっと息子も、漁師をやりたくなってしまうでしょう。
自分がそうだったから。
でも、漁師ではもう喰っていかれませんのです」
秋から冬に旬をむかえる「モクズガニ」
大橋さん兄弟は、季節によって漁場と漁法を変える。
初夏はサツキマス、夏は手長エビ。そして秋から冬に旬を迎えるのが、川ガニのモクズガニ漁だ。
ツメにフサフサと生えた毛は、水の中ではボクサーのグローブのように膨らんでいる。上海蟹と同じ仲間で、日本全国でみられるが、漁獲量が少ないためスーパーなどに流通することはほとんどない。だが、そのうまみは濃厚で、一度食べたらもう海のカニは食べられないという人もいるほど。
秋から冬にかけて、モクズガニは産卵のため伊勢湾に下って行く。海と川の水が混じり合う汽水域で繁殖し、夏に子ガニが上流へと上る。
大橋さんたちは、カニや魚たちが川底のどの道を通り、どのあたりで休憩してエサを食べるか知っている。季節によって変わるその場所をとらえることは、大橋さんたちにしかできない技だ。
川面と空と、ひとつになる解放感
見学者の私たちは、漁師と同じ小さな木船に乗った。乗れるのは8人が限界だ。だから、このプログラムはいつも大人気だが定員を増やすことができない。
水面に近い高さで、川風を抜け、橋をくぐる。
岐阜に住んでいて、川を見慣れている者でもなかなかできない体験だ。
思っていたより水底は澄んで、時折、鯉などの魚影が足元を逃げていく。
気持ち良い!川は生きている、といわんばかりに、波がうねって過ぎる。
大きな工場の横を過ぎた途端、変わる水の色と匂い。
大橋さんたちの話は謙虚で面白くて、どんな環境活動家の言葉よりも、素直に胸に落ちてくる。こんなにたくさんのカニが、海と行き来していたなんて、私は今まで想像したこともなかった。
味わって知る、この川の豊かさ。ああ、長良川って、岐阜って、いいとこだなぁ!
モクズガニって、こんなにおいしいのか!
川ガニと言えば、沢ガニくらいしか知らなかった私。
このうまさが、すぐそこの長良川で獲れるとは!
中でもミソのうまみは濃く、少しの酸味とともに甘みが広がる。海のカニに比べると小さくて身を食べるのは困難だが、その身もまた、しみじみとうまい。そして、ほんのり長良川の香りがする。
参加者みな、カニを前に無心になり、言葉数も少なくなることに気づいて笑いあう。
川ガニを味わうには、じっくりうまみを引き出す技が必要だ。カニを知り尽くした丸福寿司だからこそできる、素材を生かしたカニの七変化に酔いしれる。
ダシとカニのうまみを互いに吸った煮物椀からはじまり、
シンプルに旨味が楽しめる塩ゆでガニ、
リクエストNO.1の、じっくりカニのうまみをひきだしたパスタ、
信州みそに豪快に入れた半熟のカニ鍋、
炊き込みごはん…。いったい、何匹のカニを食べたことだろう!
〆の手作りガトーショコラまで、絶品だ。
大橋さんと丸福寿司の大将・清水さんの話も、聞き逃せない面白さ。
帰り道、いつもの川の輝きが違って見えた。
心の中で手をあわせ「ごちそうさまでした」と川に唱えた。
(奥村裕美)
<岐阜新聞連載のおんぱく写真部リポートにも掲載されました>
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岐阜新聞版:おんぱく写真部リポート2013